刑事事件

ネット上の誹謗中傷の厳罰化!!

1 侮辱罪の厳罰化

 近年,インターネット上の誹謗中傷が大きな社会問題になっています。

 総務省が運営する「違法・有害情報相談センター」によると,令和2年度に寄せられた相談は5407件。ここ10年間で相談件数は,約4倍にも達し,早期の対応強化が求められていました。

 政府は,令和4年3月8日,ネット上の誹謗中傷を抑止するため,「侮辱罪」を厳罰化する刑法改正案を閣議決定しました。

 今後,悪質な誹謗中傷が抑制されることが期待されています。そこで,本日は,侮辱罪の意義,改正点の内容について解説します。

2 侮辱罪ってどんな罪?

⑴ 侮辱罪とは,事実を摘示しないで,公然と人を侮辱する罪です(刑法231条)。

 人の社会的評価(事実的名誉・外部的名誉)を保護することが目的です。

⑵ 「侮辱」とは,人に対する侮蔑的な価値判断の表示を言います。

 公然と人の社会的地位を軽蔑する抽象的判断を発表すると,「侮辱罪」が成立すると言われています(大判大15.7.5刑集5-303)。

 たとえば,『バカ』『アホ』『死ね』等々,具体的な事実を摘示しないで,相手方を誹謗中傷した場合です。

⑶ これに対し,事実を摘示して,社会的評価を低下させた場合は,名誉毀損罪が成立します(刑法230条)。

 たとえば,『○○さんは過去に□□の罪を犯したことがある。』『○○さんは,□□と不倫している。』などと具体的事実を示し,他人の社会的評価を低下させると,侮辱罪ではなく,名誉毀損罪が成立します。

 摘示された事実が,「真実」か「虚偽」であるかは問いません。たとえ真実であっても社会的評価が低下すれば,名誉毀損罪は成立するので,注意が必要です。

 具体的な事実摘示があると社会的評価が大きく損なわれ,その回復が困難となるため,名誉毀損罪の法定刑(刑罰のこと)は,侮辱罪より大幅に高くなっていました。

【侮辱罪と名誉毀損罪の差異】

・具体的な事実摘示の有無

   事実摘示なし→侮辱罪

   事実摘示あり→名誉毀損罪

・刑罰の重さ ※現行刑法の法定刑

   侮辱罪→拘留(1日以上30日未満)又は科料(1000円以上1万円未満)

   名誉毀損罪→3年以下の懲役もしくは禁錮,50万円以下の罰金(1万円以上50万円以下)

3 法定刑(刑罰)の引き上げ

 名誉毀損罪と侮辱罪は,いずれも人の社会的評価を保護しています。

 両者の差異は,「事実摘示の有無」だけです。しかし,事実摘示の有無は,事案によって微妙なケースもあり,従来から刑罰に差があり過ぎるとの批判がなされていました。

 加えて,昨今ネット上の誹謗中傷が大きく社会問題化していることから,悪質な誹謗中傷の抑制が喫緊の課題となっていました。

 そこで,侮辱罪の法定刑に懲役刑を導入し,名誉毀損罪に準ずる刑罰を科す方向で閣議決定されました。もちろん,誹謗中傷と正当な論評との区別は容易ではありません。

 今後「表現の自由」への配慮も含めて丁寧な議論が求められますが,今回の閣議決定が被害救済への大きな一歩となったことは間違いありません。

【侮辱罪の罰則強化】

現行法:拘留(1日以上30日未満)又は科料(1000円以上1万円未満)

    公訴時効期間:1年

改正法:1年以下の懲役若しくは禁錮,30万円以下の罰金(1万円以上30万円以下),又は拘留若しくは科料

    公訴時効期間:3年

4 まとめ

 表現の自由は,民主主義の根幹であり,最大限保障されるべき基本的人権であることは言うまでもありません(憲法21条)。

 一方で,表現の自由も無制約ではなく,表現の自由を理由にプライバシー権や人格権といった権利(憲法13条)を侵害することは許されません。

 その意味で,今回の「侮辱罪を厳罰化する」閣議決定は正当であったと思います。

 たとえ軽い気持ちで投稿したとしても,他人を誹謗中傷する行為は,重大な人権侵害であるとの自覚を忘れず,インターネットの適正利用を心掛けていきたいです。

 ネット上の誹謗中傷でお困りの方は,諦めないで,ぜひ一度専門家までご相談ください。