相続・遺言

建物を取り壊したら相続放棄はできないの?

この記事を書いたのは:清水 洋一

相続放棄は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に行う必要があります(民法915条1項)。しかし、この期間内であっても、一定の行為をすると法律上「単純承認」とみなされ(民法921条)、相続放棄ができなくなってしまいます。

単純承認の定義

単純承認とは、被相続人の財産や負債をすべて無条件で引き継ぐことを意味します(民法920条)。特に注意が必要なのは、「相続財産を処分した場合」です。たとえば、不動産を売却したり、預貯金を引き出したり、自動車などを売却した場合には、「自分の財産として扱った」と評価され、単純承認に該当する可能性があります。

では、被相続人名義の建物を解体した場合はどうでしょうか。建物の解体は、物理的に財産を消滅させる行為であるため、原則としては「処分」に該当し、単純承認とみなされるリスクがあります。そのため、安易に解体を行うと、相続放棄ができなくなるおそれがあります。

解体行為は「財産の処分」ではなく、「管理」または「保存行為」?

もっとも、すべての場合に単純承認となるわけではありません。たとえば、建物が著しく老朽化しており、倒壊や外壁の落下などの危険がある場合や、放置することで近隣住民に被害を及ぼすおそれがある場合には、やむを得ず解体を行うこともあります。このようなケースでは、解体行為は「財産の処分」ではなく、「管理」または「保存行為」と評価されることがあり(民法921条1号ただし書)、単純承認には当たらないと判断される可能性があります。

特に、相続人が自己の費用で解体を行い、そこから経済的な利益を得ていない場合には、「相続財産を維持・保全するための行為」として評価されやすくなります。老朽化した空き家は、経済的価値に乏しいだけでなく、倒壊や損壊による事故、さらには防犯・衛生面での問題を引き起こす可能性があり、放置すること自体がリスクとなるためです。

しかし、これらの判断は一律ではなく、建物の老朽化の程度や経済的価値、解体の目的、費用負担の有無、周辺状況など、さまざまな事情を総合的に考慮して判断されます。 

そのため、「古い建物だから解体しても問題ない」と安易に考えるのは危険です。

建物は一般に高い経済的価値を有する財産と考えられているため、解体行為は単純承認と評価されるリスクを常に伴います。相続放棄を検討している場合には、建物の解体や預貯金の引出しなどの行為を行う前に、専門家へ相談することが重要です。

迷った場合には、まずは相続財産に手を付けないことが最も安全な対応といえるでしょう。

相続放棄でお困りの方はお気軽にご相談ください。


この記事を書いたのは:
清水 洋一