財産管理

成年後見支援信託について

この記事を書いたのは:清水 洋一

1 成年後見制度とは

 成年後見制度とは,認知症,知的障害,精神障害などによって判断能力が十分ではない方を保護するための制度です。

 民法は,「私的自治の原則」を採用しています。私的自治とは,私的な法律関係については,個人が自由意思に基づいて自律的に形成することができる原則のことです。

 つまり,簡単に言うと,「自分のことは自分で決められる」原則のことです。

 しかし,私的自治の原則を貫くと,判断能力が十分でない方は,自らの権利や利益を守ることができないため,財産管理や身上監護において,不当な不利益を被る危険性があります。

 そこで,民法では,判断能力が十分でない方の意思決定を支援すべく,成年後見制度が設けられています。

2 成年後見制度の類型

 以下のとおり,①後見②保佐③補助の3種類です。

 成年後見制度は,判断能力の程度に応じて類型が異なります。

判断能力の低下が大きい順に,後見>保佐>補助となっています。

【後見制度の類型】

 成年後見…精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者

 保佐…精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者

 補助…精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者

 判断能力の低下によって審判を受けた者を「成年被後見人」「被保佐人」「被補助人」と呼びます。そして,成年被後見人には「成年後見人」が,被保佐人には「保佐人」が,被補助人には「補助人」がそれぞれ選任され,これらの者が保護者となって,被後見人等の財産を守っていくことになります。

 後見人等には,本人の財産管理・身上監護のため,法律行為(主として契約)の同意権・取消権・代理権が付与されます。

 各類型によって付与される権限は異なりますが,被後見人,被保佐人,被補助人が単独で法律行為をした場合,無条件でこれを取り消すことができます(民法9条本文,13条4項,17条4項)。

3 後見制度支援信託とは

 成年後見制度の利用にあたって,ポイントとなるのが「後見制度支援信託」です。

 後見制度支援信託とは,被後見人の財産のうち,日常的な支払をするのに必要十分な金銭を後見人が管理し,通常使用しない金銭を信託銀行に信託し,その払戻には家庭裁判所の指示書を必要とする制度です。

 これによって,財産管理を行う後見人の不正行為を予防することが期待できます。

 信託銀行は,信託財産(本人の財産)と固有財産(信託銀行の財産)を分別して管理しなければならず(信託法34条,分別管理義務),万一,信託銀行が倒産しても,信託財産は,破産財団に属さないため影響を受けません(信託法25条,倒産隔離機能)。 

 この他にも,信託銀行は金融庁から監督を受けたり,預金保険制度で保護されたりするなど,本人が信託した財産を保護する制度が用意されています。

 ちなみに,名古屋家庭裁判所では,本人の流動資産(現預金,有価証券,売掛金などすぐに現金化できる資産)が1200万円以上となる場合に,後見制度支援信託の利用を推奨しています。

 本人が多額の流動資産を保有しているにもかかわらず,支援信託を利用しない場合,専門職の後見監督人(弁護士や司法書士など後見人等の業務を監督する者)を選任し,不正行為を予防する運用を行っています。

 したがって,本人に1000万円を超える流動資産がある場合,後見人等に就任予定の方は,後見制度支援信託の利用を検討したほうが良いでしょう。

4 後見制度支援信託の中身

 後見制度支援信託を利用できるのは,成年後見のみです。残念ながら,保佐や補助には利用できません。

 また,信託対象財産は,金銭のみです。預貯金・株式・投資信託等の流動資産は,解約して金銭化する必要があります。もちろん,不動産や事業用資産などの固定資産は,支援信託の対象財産とはなりません。

 信託契約締結後は,通常必要としない金銭は信託銀行に信託されます。このため,後見人は,基本的に毎月の生活費(医療費,施設費等を含む。)を支払う預貯金のみを管理することになります。

 例えば,緊急の手術,介護に伴う自宅のリフォーム,施設への入所等々,臨時の出費が必要となったときは,臨時出費が必要である旨を報告し,家庭裁判所から指示書の発行を受けて信託財産を払い戻すことができます。

 反対に,不動産売却などによって,流動資産が増加した場合,同じく家庭裁判所から指示書の発行を受け,追加信託を設定することも可能です。

5 まとめ

 少子高齢化が加速する日本では,今後,成年後見制度の需要が益々高まっていきます。

 後見人が被後見人の権利保護を実現するのは当然ですが,後見制度支援信託は,後見業務の適正を担保する有効な手段であるため,ぜひ利用を検討してみてください。

 後見で分からないこと,不安なことがありましたら,お気軽にご相談ください。


この記事を書いたのは:
清水 洋一