刑事事件

損害賠償命令の活用!!

この記事を書いたのは:清水 洋一

1 はじめに

 犯罪被害に遭われた被害者は,どのように被害の回復を図れば良いのでしょうか。

加害者が逮捕勾留され,裁判所で刑罰を受けたとしても,それだけで被害者の経済的・精神的な損害を回復することはできません。

 もちろん,民事裁判を利用して損害賠償を請求することは可能ですが,裁判手続という高いハードルがあり,被害回復を諦めてしまう被害者が多いのも事実です。

そこで,今回は,犯罪被害者の支援策の一つである「損害賠償命令」について解説したいと思います。

2 損害賠償命令の意義

 損害賠償命令とは,地方裁判所の刑事手続において,被害者の申立てにより,裁判所が被告人に対し,損害賠償を命じる制度です。

「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(以下「犯罪被害者法」という)」で規定されています。

 民事手続と刑事手続は,別個の裁判手続であるため,本来,犯罪被害者は,被害の回復を得るためには,被告人(加害者)に対し,不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起しなければなりません。つまり,民事手続を起こす必要性がありました。

 しかし,損害賠償請求訴訟には,多大な労力と費用を要し,被害の回復は容易ではありません。裁判手続が複雑であるため,犯罪被害者でありながら,満足に被害を回復することができない状況が散見されました。

 このような状況に鑑み,刑事手続の証拠をそのまま利用し,簡易・迅速に損害賠償を得られる特例として設けられたのが,損害賠償命令の制度になります。

3 損害賠償命令の対象

 損害賠償命令の対象になる犯罪は,以下のとおり,一定の犯罪に限定されています。対象の犯罪に該当すれば,既遂,未遂は問いません。

 申立人は,以下の犯罪について,被害に遭った被害者本人又はその相続人です。

 ⑴ 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪

   例)殺人,傷害,危険運転致死傷,強盗致死傷など

 ⑵ わいせつ罪

   例)強制わいせつ,強制性交等

 ⑶ 逮捕監禁・略取誘拐罪

 ⑷ 犯罪行為に上記⑴~⑶を含む罪

4 損害賠償命令の手続

⑴ 手続の概要は,以下のとおりです。

① 刑事被告事件の第1審の弁論終結までに係属裁判所に申立て

    ⇒申立手数料は2,000円,時効の完成猶予あり。

② 刑事被告事件の有罪判決後,口頭弁論期日(又は審尋)が開催されます

    ⇒最初の審理期日において,刑事被告事件の訴訟記録を職権で取り調べます。

③ 口頭弁論(又は審尋)は,原則4回までしか開催できません。

④ 審理終結の宣言

⑤ 損害賠償命令の発布

   ⇒損害賠償命令の送達日から2週間以内に異議がなければ確定。

確定判決と同一の効力を有する債務名義となります。

⑵ 損害賠償命令では,通常の民事訴訟と同じように,

 和解,請求の放棄,請求の認諾,取下げをすることができます。

5 民事訴訟手続への移行

 損害賠償命令は,手続保障の観点から,通常の民事訴訟へ移行することがあります。裁判所の決定や当事者の異議申立てがあったときは,必要的移送となります(民事訴訟手続へ必ず移送しなければならない)。

⑴ 裁判所の決定による移行

①原則4日以内に審理終結が困難であるとき

②申立人(被害者)が民事訴訟への移行を求めたとき

③当事者双方が民事訴訟への移行を同意したとき

は,決定により,損害賠償命令事件は,通常の民事訴訟へ移行されます。

⑵ 当事者の異議による移行

 当事者は,損害賠償命令に対して異議を申し立てることができます。

 損害賠償命令の決定書送達の日から2週間以内に,当事者が異議を申し出た場合,損害賠償命令の申立て時に民事訴訟の提起があったものとみなされます。

 損害賠償命令事件の記録は,民事訴訟が係属した裁判所に送付されるため,当事者は,書証の申出をする際,送付記録のうち該当する書証を特定さえすれば良いことになっています。刑事記録を改めて書証として提出する必要はありません。

⑶ 民事訴訟へ移行後は,

 通常の訴訟手続に則って審理が進められます。

6 最後に

 損害賠償命令の概要は,以上のとおりです。民事訴訟の特例的な制度として位置づけられていますが,これによって犯罪被害者の方は,以前よりも簡易・迅速に被害回復を得られることになりました。

 もちろん,あらゆる犯罪に対応できるわけではありませんが,被害者にとって有効な選択肢の一つであることは間違いありません。

罪被害に遭われてお困りの方は,一人で悩まず専門家にぜひご相談ください。


この記事を書いたのは:
清水 洋一