離婚問題

教えて!!婚姻費用と養育費

この記事を書いたのは:清水 洋一

1 そもそも,婚姻費用・養育費って何!?

⑴ 婚姻費用とは,夫婦と未成熟子によって構成される婚姻家族が,その資産,収入,社会的地位等に応じた通常の社会生活を維持するために必要な費用です(民760)。養育費とは,未成熟子の監護や教育のために必要な費用です(民766Ⅰ)。

  簡単に言うと,婚姻費用,養育費,いずれも「必要な生活費」のことです。

⑵ 法律上,婚姻費用と養育費は,別個の扶養請求権(扶養を求める権利)です。

 しかし,婚姻期間中は,子どもの養育費が婚姻費用に含まれるため,養育費に相当する部分も含め,婚姻費用として請求します。つまり,離婚前は「婚姻費用」として,離婚後は「養育費」として,それぞれ請求することになります。

⑶ イメージとしては,

 【婚姻費用=養育費(子の生活費)+配偶者の生活費】

 と考えれば理解しやすいと思います。

 婚姻費用は,配偶者の生活費が加算されているので,特段の事情がない限り,養育費よりも高額になります。

2 婚姻費用・養育費の法的根拠

⑴ 夫婦は,互いに協力し,扶養する義務を負っています(民752)。

 また,直系血族及び兄弟姉妹も互いに扶養する義務を負っています(民877Ⅰ)。

 このように,夫婦,親子,兄弟姉妹は,互いに扶養義務を負担しますが,親族間の扶養義務は,性質上,「生活保持義務」と「生活扶助義務」に区別されます。

⑵ 生活保持義務とは,自身の生活を保持するのと同程度の生活を被扶養者(扶養される方)にも保持させる義務です。

 例えば,お茶碗一杯のご飯しかなければ,それすら分け与えなければならない「強い扶養義務」です。

 夫婦間(配偶者間)や親子間(親の子に対する扶養のみ)の扶養は,生活保持レベルの扶養義務と説明されています。

⑶ これに対し,生活扶助義務は,自身の生活を犠牲にしない限度で,被扶養者の最低限の生活扶助を行う義務です。

 お茶碗一杯のご飯しかなければ,それは自分ひとりで食べてよい「弱い扶養義務」です。

 兄弟姉妹,子の親に対する扶養は,生活扶助レベルの扶養義務と説明されています。

 婚姻費用分担義務,養育費支払義務は,いずれも「生活保持義務(強い扶養義務)」を基礎とする権利であり,その考え方が計算式にも反映されています。

3 婚姻費用・養育費の算定方法

 現在の裁判実務では,標準算定方式による算定が大勢です。これを図表化した算定表(令和元年改訂版)によって,婚姻費用・養育費の適正額が簡易迅速に確認できます(インターネット上のWEBサイトに掲載あり)。

 算定表では,①当事者双方の総収入と,②子どもの数・年齢を基準に,適正額を算出する形式となっています。

 子どもの数・年齢は,戸籍謄本を確認すれば明らかであるため,上記②が問題になることはほとんどありません。しかし,上記①の収入額が争点になることは時折あります。

では,夫婦双方の総収入額は,どのように決定されるのでしょうか。

4 総収入の認定方法

⑴ 給与所得者の場合

 会社員(パート・アルバイトを含む。以下同じ。),会社役員,公務員などの給与所得者の場合,源泉徴収票の「支払金額」欄,課税証明書の「給与の収入金額」欄によるのが原則です。

 しかし,これらの文書が提出できないとき(就職して日が浅い等),提出できても適正な金額を反映していない(病気や怪我で長期間の休養を余儀なくされていた)と認められるときは,直近数か月の給与明細によって年間収入を認定します。

 勤務先が複数ある場合,一つの源泉徴収票では総収入が分からないので,所得証明書の金額を基準にします。

⑵ 自営業者の場合 

 自営業者の場合,確定申告書の「課税される所得金額」に現実に支出されなかった費用を加算した金額を総収入とします。

 より正確には,確定申告書の「所得金額」から「社会保険料」を控除し,現実に支出されていない「青色申告特別控除」「専従者給与額の合計額」を加算した金額となります。

 税法上,現実に支出されない費用控除は多数ありますが,一般的・定型的な費用控除は「課税される所得金額」に加算(持戻し)しません。

 一方,減価償却費は,適正な金額であれば経費控除が認められますが,不適当であるときは「課税される所得金額」に加算されます。その代わり,償却資産の取得に要した借入金の返済額の一部又は全部を経費として控除することができます。

⑶ 無職者の場合

 病気や怪我によって就労が不能または著しく困難である場合,稼働能力なしとして総収入がゼロと認定されることが多いです。

 一方,退職して収入がゼロになった場合,再就職が困難でなければ,稼働能力があるため従前の収入を認定したり,賃金センサスで収入を認定したりします。

 労働意欲を欠いて就労を拒絶する場合,本来の稼働能力を発揮したら得られるであろう収入を諸事情から推認し,これを総収入とすることができます。

 この場合,賃金センサスで収入が推計されることもあります。

【総収入の金額まとめ】

給与所得者:源泉徴収票の「支払金額」,または,課税証明書の「給与の収入額」

  ※直近数か月分の給与明細で年間収入を認定する場合もある。

自営業者:確定申告書「課税される所得金額」に現実に支出されなかった費用を加算した金額

 ※「所得金額」-「社会保険料控除」+「青色申告特別控」+現実の支払がない「専従者給与」

 ※一般的・定型的な費用は「課税される所得金額」に加算しない。

 ※減価償却費は,適正額であれば加算しないが,不適当であれば加算

 無職者:稼働能力の存否・程度によって収入額の認定が異なる。

 ※前職の収入や賃金センサスなどで収入を推計する。

5 まとめ

 婚姻費用・養育費は,重要な扶養請求権であり,配偶者・子にとって欠かすことのできない生計の資本です。

 しかし,支払を拒絶されたり,減額されたり,他の債権と相殺されたりするなど,相手方の一方的態度によって扶養請求を諦めてしまう方もたくさんいます。

 しかし,婚姻費用・養育費を諦める必要はありません。適正な権利行使をすれば,生計の道筋を付け,子の将来を守っていくことにつながります。

 婚姻費用・養育費のことでお困りの方は,ぜひお気軽にご相談ください。


この記事を書いたのは:
清水 洋一