相続・遺言

死後事務委任契約と遺言

この記事を書いたのは:清水 洋一

1 死後事務委任契約の意義

 事後事務委任契約とは,委任者(お願いする人)が受任者(お願いされる人)に対し,自己の死後の事務を生前に依頼する契約のことです。

 たとえば,死亡後の葬儀(火葬・納骨・法要等を含む。),墳墓の管理,永代供養,居所の整理・明渡し,親族関係者への連絡,金融機関や行政への届出,医療費・施設利用料の精算等が考えられます。

2 死後事務委任契約の締結方式

 死後事務委任契約は,準委任契約(民法656条,643条)であるため,遺言のように契約の成立に一定の方式は要求されていません。このため,口頭でも契約は成立しますが,死後事務の内容を明確化し,かつ,利害関係人との紛争を予防する趣旨から,必ず書面化すべきです。

 また,信用性を確保するためには,できれば,①公正証書で締結したり,②私文書であっても実印を押印し,印鑑登録書を添付したりすることが望ましいです。

3 遺言との関係性

 死後事務委任契約と似て非なる制度として,遺言(民法960条)があります。

 遺言は,厳格な要式行為であり(民法960条),遺言事項が法定されています。すなわち,法的拘束力が認められる事項(これを「法定遺言事項」と呼びます。)は限定されています。その余の事項は,遺言者の意思・訓戒・付言事項に過ぎず,法的拘束力は認められません。

 一方で,死後事務委任契約は,遺言ではカバーできない事項についても法的拘束力を付与することができます。もちろん,受任者の承諾が必要ですが,委任者が希望する事項を自由に取り決めることができるため,遺言と比較して,裁量の範囲が広く,柔軟性が高い制度と言えます。

 このように,遺言と死後事務委任契約は,事案に応じて使い分けるのが得策であり,両者を併用すべき場面もあります。

 

4 まとめ

 単身世帯の増加によって,死後事務委任契約の利用は,今後ますます増えていくと思われます。死後事務委任契約は,利用価値の高い制度ですが,他の制度との兼ね合いを十分考慮する必要があり,専門的な知識が求められる分野です。

死後事務委任契約をはじめ,相続・遺言・後見などで,お困りの方,お悩みの方は,ぜひ専門家にご相談ください。


この記事を書いたのは:
清水 洋一