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身元保証人の責任

この記事を書いたのは:清水 洋一

1 身元保証は,雇用契約の締結に際し,被用者(労働者のこと)が使用者(雇用主のこと)に対し,損害賠償義務を負う場合に,その損害を担保することを目的とした契約です。 

「引受」「保証」など名称の如何を問わず,被用者の行為によって使用者に発生した損害を賠償する契約は,身元保証契約に該当し,「身元保証ニ関スル法律(以下「法」という。」の適用があります。

2 身元保証は,親族間の情誼から締結されることが多く,長期間かつ広範囲の責任を負担する危険性があるため,身元保証法により合理的な制限が設けられています。

  まず,身元保証も保証契約の一種であるため,書面に依らなければ無効です(民法446条2項)。また,保証責任が無限定という面では,個人根保証と共通するため(狭義の保証契約の場合には),極度額を定めなければ無効とされています(民法465条の2第2項)。

そのうえで,期間の定めのない身元保証の存続期間は,成立の日から3年間です(法1条本文)。期間の定めのある身元保証は,存続期間が5年であり,これより長い期間を定めても5年間に短縮されます(法2条1項)。更新はできますが,更新日より5年間をこえることはできません(法2条2項)。

再度の更新ができるか否かは,条文上は明らかではありませんが,身元保証人の責任を限定する身元保証法の趣旨から,再度の更新はできないと考えられています。同様の趣旨で,更新予約や自動更新もできません。どうしても延長したい場合には,新たに身元保証契約を締結しなければなりません。

3 使用者は,次の事情が認められた場合には,身元保証人に通知をしなければなりません(法3条)。

① 被用者に業務上不適任又は不誠実な事跡があって,このため身元保証人の責任を惹起する恐れがあることを知ったとき

② 被用者の任務又は任地を変更し,このため身元保証人の責任を加重し,又はその監督を困難にするとき

 すなわち,使用者は,保証責任の発生・加重の危険性が高まった時には,身元保証人に通知をする義務があります。もちろん,通知義務を懈怠したとしても,身元保証人の責任が免責されるわけではありませんが,責任の範囲を限定する際の一事情として考慮されます。

4 身元保証人は,使用者から上記①又は②の通知を受けたとき,又は,自らそれらの事情を知ったときは,将来に向かって身元保証契約を解除することができます(法4条)。

5 裁判所は,被用者の監督に関する使用者の過失の有無,身元保証人が身元保証をするに至った事由及びこれに当たって用いた注意の程度,被用者の任務又は身上の変化,その他一切の事情を斟酌し,身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定めます(法5条)。

 身元保証は,損害賠償の範囲や金額が不明確であり,身元保証人が極めて高額な責任を負担する危険性があります。このため,裁判所が合理的に責任を限定できるように規定されているのです。

6 身元保証は,契約類型として馴染みのない方も多いと思います。

 身元保証に限らず,保証契約は,保証人が知らぬ間に過大な責任を負担しかねない契約ですので,お困りの方,お悩みの方は,ぜひ専門家にご相談ください。


この記事を書いたのは:
清水 洋一