家族信託とは、家族のための財産管理・財産承継を目的に、自分の財産を信託することです。具体的には、資産(現金、預貯金、有価証券、不動産など)を保有する者が、ある特定の目的を実現するため、その保有する資産を信頼できる家族や親族に託し、その管理・処分を委ねる制度です。
遺言や後見と比較すると、柔軟な制度設計が可能であるため、事案に応じた適切な財産管理・財産承継の仕組みをつくることができます。
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子の生活支援でお悩みの方
昨今、高齢化社会の到来によって、高齢者、障害者、年少者その他支援を必要とする家族(要支援者)に対し、将来にわたる生活支援をしたいという要望が高まっています。後見、遺言など従来の制度を活用するのは言うまでもありませんが、これに併せて信託を利用することにより、ご本人の希望に合致した、より柔軟な生活支援を実現することができます。
妻の生活支援でお悩みの方
日本社会の高齢化、核家族化により、ご自身が亡くなった後に遺される配偶者(たとえば妻)の生活を心配される方が多くいらっしゃいます。状況によっては後見・遺言で対応できるかもしれませんが、ご親族の中で信頼できる方(たとえば甥)を確保できれば、委託者が本人、受託者が甥、受益者を受益者とする、信託を設定することができます。後見、遺言を組み合わせて、一層効果を発揮することができる場合もありますので、一度ご相談ください。
将来の生活費や教育費でお悩みの方
将来事業が立ち行かなくなった場合に備えて、最低限の教育費や生活費を確保するため、自己信託を利用することができます。
信託を設定するには、①信託契約、②遺言信託、③自己信託(供託宣言)の3種類があります。このうち、自己信託とは、たとえば委託者を本人、受託者を本人、受益者を子とし、本人が子名義の口座を管理するタイプの信託です。信託の倒産隔離機能により、将来事業が立ち行かなくなったとしても、最低限の教育費・生活費を確保することができます。
後継ぎ遺贈でお悩みの方
遺言者が死亡して遺言の効力が発生した後、遺産を譲り受けた受遺者が死亡した場合に、遺言者の指定する者に、遺贈の目的物を与えるとする内容の遺贈のことを、実務上「後継ぎ遺贈」と呼びます。後継ぎ遺贈は、具体的なニーズがあるにもかかわらず、一般的に無効と解されており、遺言では、実現が困難であると言われてきました。しかし、信託を活用すると、後継ぎ遺贈と同様の法的効果を得ることができます。すなわち、受益者に順位を付けて、受益権(財産)の行き先を指定しておく「受益者連続型信託」を活用することにより、実質的に、後継ぎ遺贈を実現することができます。
事業後継者でお悩みの方
信託財産を自社株として、「議決権行使の指図権」と「受益権(配当を得る権利)」を切り離し、本人が前者を、後継者が後者をそれぞれ取得する設定を行います。
すると、自社株の経済価値だけが後継者に移転し、議決権は本人が継続して行使することになりますので、後継者が経験を積んでから事業を承継することが可能になります。それまでは、本人が会社支配権を確保することになります。そして、将来的に「議決権行使の指図権」を後継者に移転する場合、その評価額はゼロになりますので、贈与税は課されません。
弁護士に相談するメリット
希望に合った仕組みを実現が可能
遺言や後見も活用しながら事案に応じた適切な信託制度を設計し、希望に合った柔軟な財産管理・財産承継の仕組みを実現することができます。
安心・安全な設計や運用が可能
信託は、法律・税金・登記などの専門能力を必要とする分野であるため、各分野の専門家の助言を得ることで安心・安全な設計や運用をすることができます。
時間的・心理的負担からの解放
弁護士が関与することで事務処理や監督業務から解放されて、時間的・心理的負担から解放されます。
家族信託で気になるポイント
家族の生活支援について
家族信託は、委託者が財産の管理・承継を受託者に託する制度です。従来より、財産の管理は後見が、財産の承継は遺言や贈与が利用されていましたが、信託を活用することにより、本人の希望に合致したより柔軟な、財産の管理・承継を実現することができます。信託では、後見・遺言と比較し、自由度の高い制度設計が可能であるため、個別の事案に応じた適切なスキーム(信託の仕組み)を用意することができます。
教育資金の贈与について
孫や年少の親族へ教育資金を交付する場合、一般的には、生前贈与や遺贈が考えられます。しかし、贈与税や相続税の負担、保護者による使い込み、本人による浪費の危険性といった弊害があり、教育資金の適切な交付が困難な事案があります。しかし、この場合も信託を活用することにより、孫や年少の親族に対し、委託者の生存中はもちろん、死後も安定的に教育資金を交付することができます。
家族の生活費や子の教育資金について
将来の事業悪化に備え、子の生活費・教育資金を守るために、自己信託(供託宣言)を活用することができます。
自己信託とは、委託者を本人、受託者を本人、受益者を子として、財産を信託するものです。すなわち、本人が委託者兼受託者となって、受益者である子のために財産管理を行うことなります。信託には倒産隔離機能があるため、たとえ事業が立ち行かなくなったとしても、信託財産である生活費・教育資金はしっかり確保することができます。もっとも、自己信託は、強制執行回避に悪用される危険性があるため、基本的に公正証書の形式で設定することになります。
遺産相続先の指定について
信託を利用することにより、実質的に「後継ぎ遺贈」を実現することができます。
「後継ぎ遺贈」とは、遺言者が死亡して遺言の効力が発生した後、遺産を譲り受けた受遺者が死亡した場合に、遺言者の指定する者に、遺贈の目的物を与えるとする内容の遺贈のことです。
たとえば、遺言者が死亡したら、まずは妻に遺産を相続させ、その妻が死亡したら、次は、遺言者の兄弟姉妹に遺贈するというものです。
もっとも、「後継ぎ遺贈」は、実務上無効と解されることが多く、遺言では実現が困難であると言われてきました。
しかし、受益者にあらかじめ順位を付けて、受益権(遺産)の行き先を指定しておく、いわゆる「受益者連続型信託」を活用すると、後継ぎ遺贈と同様の効果を得ることができます。
後継者への事業引継について
信託は、事業承継にも利用することができます。
たとえば、信託財産を自社株として、「議決権行使の指図権」と「受益権(実質的には配当を得る権利)」を分離します。そのうえで、当面経営権を握る者が「議決権行使の指図権」を、後継者が「受益権」を取得します。後継者は、株式を取得するものの、実質的に議決権を喪失しているため、この時点では経営権を掌握することはできません。
そして、後継者が経験を積んでから事業承継が可能になった時点で、「議決権行使の指図権」を後継者に移転させることにより、後継者は、形式的にも、実質的にも経営権を掌握し、先代より事業を承継することができます。これ以外にも、信託を組み合わせることにより、様々なスキーム(仕組み)を形成することができます。
家族信託の流れ
必要なもの・準備するもの
資産に関する資料
通帳、不動産登記簿、有価証券の残高証明書、固定資産評価証明書などの資産に関する資料は
信託財産の対象とする資産の内容、範囲、評価額を確認する必要があります。
身分に関する資料
戸籍謄本、住民票などの身分に関する資料は
委託者、受託者、受益者、及びその他の親族の身分関係を確認し、適切な信託の枠組み(スキーム)を検討するために必要です。
メモ
相談に至るまでの経緯、希望する内容を記載した簡単なメモをご用意ください。
現在又は将来に直面する問題点を確認し、これを解決するのに適した信託の枠組みを検討する必要があります。
よくある質問
私の子は障害を抱えています。私が亡くなった後、子が一人で生活していくことができるか不安です。将来にわたって生活を支援するにはどうしたら良いでしょうか。
生前贈与や遺贈によって財産を譲渡することも考えられますが、障害をかかかえた子が将来的に財産管理をしていくのは大変です。そこで、委託者を本人、受託者を親族、受益者を子、信託財産を土地建物、現預金等として、財産管理を委ねるることができます。これにより、将来にわたって生活の本拠や生活費の管理をしていくことができます。受託者の死亡に備えて、第二受託者を設定することもできます。
私の孫は未就学児童です。私が亡くなった後、孫がしっかりした教育を受けられるよう、将来にわたって教育資金を贈与したいと考えていますが、親に資金管理を任せるのは正直不安です。どのような方法が良いでしょうか。
生前贈与や遺贈によって財産を譲渡することも考えられますが、未就学児童などの年少者が譲受人の場合、現実的に保護者が財産管理をすることは避けられません。
そこで、信頼できる者を受託者として、現預金等の信託財産の中から給付時期(たとえば小学校、中学校、高校、大学の各入学時など)を特定して、孫に教育資金を支給していくことができます。
私が亡くなった後は、同居していた妻の生活を守るため、自宅の土地建物は妻に遺したいと思っています。もっとも、妻が亡くなった後は、妻の親族ではなく、私の甥に引き継がせたいと考えていますが、どうしたら良いでしょうか。
生前贈与又は遺贈の場合、妻に自宅の土地建物を遺すことができますが、妻の死後の土地建物の行方まで指定することはできません。
そこで、委託者を本人、受託者を甥(又は兄弟姉妹)、当初受益者を本人、第二受益者を妻、第三受益者は甥という形で指定します。いわゆる、後継ぎ遺贈型受益者連続信託の活用により、妻に移転した土地建物の経済的価値が、妻の死亡後は甥に引き継がられることになり、妻の親族に流出することを防ぐことができます。
私は同族会社の社長です。しばらくは私が頑張っていくつもりですが、そろそろ後継者の育成・引継を考えています。将来的には子を後継者にしたいと願っていますが、どのような方法が良いでしょうか。
生前贈与による自社株式の譲渡では、しばらく経営権を握っておきたい本人の希望を叶えることはできません。また、遺言では、本人が死亡して初めて効力を生ずることに加え、効力が生じても名義書き換え等で経営の空白期間が生ずるおそれがあります。
そこで、たとえば委託者兼受託者を本人、受益者を長男、信託財産を自社株式、議決権行使の指図権を本人に付与するとします。そして、信託終了事由(本人の死亡、認知症、確定期限の到来)を定め、残余財産帰属者を長男としておけば、しばらくは本人が経営権を握ったまま、信託終了後には自社株式を長男が引き継ぐことになり、経営権を引き継ぐことができます。この他にも信託スキーム(仕組み)が考えられるので、事案に応じた柔軟な設計が可能です。