刑事事件

刑事和解とは!?

この記事を書いたのは:清水 洋一

1 はじめに

 犯罪被害に遭われた方(以下「被害者」という。)は,本来,加害者に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)を行使し,示談・調停・訴訟などの民事手続に則って,被害の回復を図らなければなりません。

 しかし,時間・費用・労力の面で過大な負担を強いられることに躊躇し,そのまま泣き寝入りしてしまう被害者がいるのも事実です。

 そこで,本日は,民事手続を簡略化し,早期に債務名義(確定判決や和解調書など強制執行に必要な文書のこと)を取得できる「刑事和解」をご紹介したいと思います。

2 刑事和解の意義

 刑事和解とは,刑事訴訟手続に付随する民事上の和解のことです。正式名称は,「民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解」です。

 もっとも,刑事訴訟手続の中で,民事上の和解交渉が実際に行われることはなく,あくまで訴訟外で成立した和解を公判調書(刑事裁判の審理・重要事項を記載した調書)に記載するだけの制度です(犯罪被害者19条1項)。

 つまり,被害者と加害者との間で和解した内容に,法的な強制力を付与する制度に過ぎません。当事者間の事前合意が前提であり,和解内容それ自体は,あらかじめ確定しておく必要があります。

 通常,被疑者又は被告人(罪を犯したと疑われている者)には,国選又は私選を問わず,弁護人が選任されます。そして,犯罪事実に争いがない場合,弁護人は,情状弁護の一環として,被害者又はその親族と和解手続を試みます。

 和解ができたら,「合意書」「示談書」といった文書を取り交わしますが,公正証書と異なり,私人間で作成した文書には執行力がありません。

 このため,万一被疑者又は被告人が合意に違反した場合,被害者は,改めて民事訴訟を提起し,合意の履行を求めなければなりません。

 他方,刑事和解が成立している場合には,不履行があれば直ちに強制執行に移行できるため,わざわざ民事訴訟を提起する必要がありません(犯罪被害者19条4項)。

 これによって,民事手続全般に伴う,時間・費用・労力を大幅に軽減することができます。

3 刑事和解の申立て手続

⑴ 当事者

 刑事和解は,被告人と被害者(一定の親族を含む。)が共同で申し立てなければなりません。もちろん,被告人・被害者ともに代理人による合意が可能です。

 ただし,刑事被告人の弁護人は,特別の授権を得なければ,刑事和解の代理人となることはできません。

 また,被告人の無資力に備えて,保証人又は連帯債務者を刑事和解に含めることができますが,この場合は,保証人又は連帯債務者と一緒に申し立てます。

⑵ 申立ての方法

 刑事被告事件の弁論終結前(審理終了前のこと)に,被告人と被害者が,公判期日に出頭し,和解内容を記載した申立書を提出します(犯罪被害者19条3項)。

 なお,刑事和解の対象となる犯罪の種類には限定がないため,当事者の合意・出頭の要件さえ満たせば,すべての犯罪で和解ができます。

4 刑事和解の効力

 刑事和解の内容が公判調書に記載されると,その記載は,裁判上の和解と同一の効力を有します(犯罪被害者19条4項)。

 つまり,確定判決,和解調書等と同じ債務名義となり,被告人が和解内容を履行しないときは,直ちに強制執行に移行することができます。

 なお,刑事和解を共同で申し立てた者(被告人,被害者,保証人等),利害関係を有する第三者は,和解記録の閲覧,謄写,正本・証明書等の交付を請求することができます(犯罪被害者20条1項)。

5 最後に

 刑事和解は,刑事訴訟に付随する民事上の和解手続です。

 民事訴訟を経ることなく,債務名義を取得できるため,被害者の手続的負担が大きく軽減されているのが特徴です。

 被害者が以前より簡易・迅速に被害回復を得られるようになったのは大変望ましいことです。

 しかし,心身共にダメージを受けた被害者の手続的負担が完全になくなるわけではありませんので,状況に応じて専門家の活用をお勧めします。

 犯罪被害に遭われてお困りの方は,一人で悩まずお気軽にご相談ください。


この記事を書いたのは:
清水 洋一