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第三者からの情報取得手続を活用しましょう!!

この記事を書いたのは:清水 洋一

1 はじめに

 民事執行法が改正され,「第三者からの情報取得手続」が新設されました(令和3年5月1日から全面施行)。

 「第三者からの情報取得手続」とは,債権者が,債務者の財産に関する情報を,第三者から提供してもらえる制度のことです。金銭債権(お金を請求する権利)について,強制執行の実効性を高める目的で導入されました。

 今回の改正によって,債務者の非協力的な態度を原因とする,強制執行の不奏功が大幅に減少することが期待されています。

2 取得できる情報の種類

 では,どのような情報が取得可能になったのでしょうか。これについては,以下のとおり,大きく4つに分類されています。

⑴ 一つ目は,債務者が所有する不動産に関する情報(以下「不動産情報」という。)です。債務者名義となっている不動産の存否,及び,これを特定するに足りる事項を確認することができます(規則189条)。不動産登記簿謄本の情報と考えれば大丈夫です。

不動産情報の入手先は,登記所です。

 債務者名義の不動産であれば,日本全国を対象に情報を取得できるため(市町村,都道府県の単位に絞って申し立てることも可能),差し押さえるべき不動産を容易に特定することができます。

⑵ 二つ目は,債務者の勤務先に関する情報(以下「勤務先情報」という。)です。

 具体的な情報内容は,債務者に給与,報酬又は賞与を支払う者の名称・住所になります(規則190条)。しかし,勤務先情報は,プライバシー性が高いため,取得できる者は,

①養育費や婚姻費用などの支払請求権,

②人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権を有する,情報開示の必要性が高い債権者に限定されています。

 勤務先情報の入手先は,

①市町村(特別区を含む。以下同じ。),又は,②厚生年金を取り扱う団体(日本年金機構など)です。これにより,債務者が有する給与債権等の差押えが容易になります。

⑶ 三つ目は,債務者の預貯金に関する情報(以下「預貯金情報」という。)です。

 預貯金債権の存否,取扱い店舗,種別,口座番号,預金残高について,情報を得ることができるようになりました(規則191条1項)。

  預貯金情報の入手先は,金融機関です。

 複数の金融機関をまとめて指定することができ,店舗を特定する必要がないため,金融資産の主軸ともいうべき,債務者の預貯金に対する差押えが容易になります。

⑷ 四つ目は,債務者名義の株式,国債,投資信託等に関する情報(以下「株式等情報」という。)です。株式等の存否,銘柄・金額・数量について情報を得られます(規則191条2項)。

 株式等情報の入手先は,証券会社等です。

 預貯金情報と同じように,株式等情報でも複数の証券会社を指定し,店舗特定が不要であるため,株式等の特定によって,強制執行が容易になります。

 以上のように,第三者からの情報取得手続では,大きく4種類の情報を提供してもらうことができます。情報の種類・入手先を整理すると,以下のとおりです。

【情報の種類と入手先まとめ】

  「不動産情報」…登記所(法205条)

  「勤務先情報」…市町村又は厚生年金を取り扱う団体(法206条)※債権者限定あり

  「預貯金情報」…金融機関(法207条Ⅰ)

  「株式等情報」…証券会社(法207条Ⅱ)

3 情報取得手続の要件

⑴ 第三者からの情報取得手続は,債権者にとって実用性の高い制度ですが,反面,債務者のプライバシーを制限する制度でもあるため,これを利用するには,一定な要件を満たさなければなりません。

 はじめに,情報取得手続の申立人は,「執行力のある債務名義の正本」を有する「金銭債権」の債権者に限定されます。執行力のある債務名義の正本とは,確定判決,和解調書,執行証書(強制執行認諾文言付き公正証書)などです。

 また,金銭債権は,お金を請求する権利なので,返還請求権(物を返せ!)や登記移転請求権(登記をよこせ!)といった非金銭債権の債権者は含まれません。

 つまり,「お金を請求する権利を公的に認められた人」しか,情報取得手続を利用することはできません。

⑵ 次に,4種類の情報取得に共通する要件として,次のいずれかの要件を満たさなければなりません(法197条1項1号,同2号)。

 ①過去6か月以内に強制執行の手続をしたが,完全な弁済を得られなかったこと

 ②現在判明している債務者の財産からは完全な弁済を得られないこと

  このように,情報取得手続は,従前の手続では「完全な弁済を得られないこと」が要件となっており,いわば「最後の手段」として位置づけられています。

 上記①は,強制執行手続を現に行って,不奏功になったことが必要です。一方,上記②は,強制執行の着手までは不要ですが,一定の調査が義務付けられています。

 もっとも,専門的な調査は要求されておらず,住所地の不動産登記簿取得,預貯金口座照会といった,一般的な調査で足りると言われています。

⑶ また,「不動産情報」「勤務先情報」は,個別要件として,3年以内に財産開示手続が実施されていることが必要です(財産開示前置主義,法205条2項,206条2項。)。

 これに対し,「預貯金情報」「株式等情報」は,事前に財産開示手続を実施する必要はありません。これは,預貯金や株式といった金融資産は,一般的に流動性が高く,処分が容易であり,密行性を確保しながら,情報取得する必要性が高いと考えられているからです。

 このように,提供を求める情報によって,財産開示の事前実施が必要か否か異なるので,注意が必要です。財産開示手続の要否を整理すると,以下のとおりです。

【財産開示前置の要否まとめ】

  「不動産情報」…必要(法205条2項)

  「勤務先情報」…必要(法206条2項)※債権者限定あり

  「預貯金情報」…不要  

  「株式等情報」…不要  

4 まとめ

 以上のとおり,新設された情報取得手続の活用により,債権者は,債務者に関する「不動産情報」「勤務先情報」「預貯金情報」「株式等情報」といった,強制執行の前提となる重要な情報を得ることが可能になりました。

 従前の制度では,判決を取得しても回収不能となることがままありましたが,今後,情報取得手続が正常に機能すれば,強制執行が奏功する可能性が高まり,多くの債権者を救済していくことができます。

 債権回収を諦めて,泣き寝入りするのではなく,一度専門家にご相談することをお勧めします。


この記事を書いたのは:
清水 洋一