消費者問題

財産開示手続の実効性向上ついて

この記事を書いたのは:清水 洋一

1 財産開示手続とは!?

⑴ 「裁判に勝ったけどお金を回収することができない!?せっかく時間と費用をかけて裁判を起こしたのに…,だったら,最初から裁判なんて起こさなければ良かった(涙)。結局は,逃げた者勝ちじゃないか!」

 たとえ判決書を取っても,実際に相手方からお金を回収できなければ何の意味もありません。まさに「絵に描いた餅」であり,こうなると判決書も単なる「紙切れ」です。

⑵ 通常,債権者(お金を請求する権利がある人)が強制執行を申し立てる場合,原則として,債務者(お金を支払う義務がある人)の財産を特定しなければなりません。

 しかし,債権者が,敵対関係にある債務者の財産状況をすべて把握していることは稀であり,判決を取得しても権利の実現を図ることが困難になる場合が多かったため,従前より執行手続の不備として問題視されていました。

 そこで,平成15年法改正により,権利実現の実効性を確保する観点から,債務者の財産に関する情報を取得する方法として,裁判所が債務者に対して財産の開示を命ずる手続が創設されました。これが「財産開示手続」です。

2 財産開示手続の実効性確保

⑴ 「えっ!?債務者の財産を開示して貰える手続!そんな制度があるなら,早く教えてよ!これでお金を回収できる。良かった,良かった!」

 しかし,財産開示手続には,申立権者(債権者)が限定されていたり,開示義務者(債務者)の不出頭や虚偽陳述に対する制裁が軽かったりするなど,実効性に乏しい制度であったことから,利用者がさほど多くありませんでした。

 また,たとえ申し立てても,債務者が出頭を拒否すると,何もできないまま手続が終了することもよくありました。

 結局は,逃げた者勝ちが横行していたということです。

⑵ このように,執行手続の前提となるような「財産開示手続」の実効性が不十分であったことから,権利実現の実効性を確保した利用しやすい制度への見直しを求める声が高まっていました。

 そこで,令和元年5月,民事執行法が改正されて,「財産開示手続」の実効性の確保が図られることになりました。

3 財産開示手続の改正ポイント

⑴ 財産開示手続の改正のポイントは,大きく分けて3つ。

 まず,①申立権者の範囲拡張です。

 従前,財産開示の申立権者は限定され,金銭債権の執行力ある債務名義(強制執行のパスポートみたいなもの。)のうち,

(ア)仮執行宣言付判決等,

(イ)執行証書(執行受諾文言が付いた公正証書),又は(ウ)確定判決と同一の効力を有する支払督促を有する債権者は除外されていました。

 しかし,改正法では,金銭債権の強制執行の申立てに必要とされる債務名義であれば,どんな債務名義であっても,財産開示手続の申立てが可能となりました。

⑵ 次に,②罰則の強化です。

 従前,財産開示手続への不出頭,宣誓拒絶,陳述拒否,又は虚偽陳述をした場合,「30万円以下の過料」を課すことができるとなっていましたが,改正法では,「6月以下の懲役股は50万円以下の罰金」が科すことができるようになりました。

 「過料」は行政罰,「懲役又は罰金」は刑罰ですので,制裁の重さが大きく異なります。もちろん「過料」では前科はつきませんが,今後,財産開示手続に対応しない場合,刑務所や労役留置場に収監され,前科がつく可能性もあるのです。

 すなわち,刑罰による威嚇よって,財産開示手続の実効性を確保しようとしているのです。

⑶ 最後に,③第三者からの情報取得手続の新設です。実務家としては,ここが一番の改正ポイントと言っても過言ではありません。

 第三者からの情報取得手続(以下「情報取得手続」といいます。)とは,債務者の財産に関する情報を債務者以外の第三者から提供してもらえる手続です。

 元々,強制執行を受ける危険性がある債務者が,自ら財産に関する情報を提供することはあまり期待できません。そこで,金銭債権の執行対象となりやすい財産について,第三者が債務者の保有する財産情報を提供できる制度を新設することになりました。

 本稿では,情報取得手続の詳細を割愛しますが,簡単に言うと,

①金融機関から,預貯金や株式等に関する情報を,

②登記所から,土地・建物に関する情報を,

③市町村等から,給与(勤務先)に関する情報を,

それぞれ取得できるようになりました。

4 結論

 以上のとおり,民事執行法改正により,「財産開示手続」の実効性・利便性は大きく向上しました。

 今までは,勝訴しても執行ができず泣き寝入りしてしまう方もたくさんいましたが,今後は,財産開示手続を活用することによって,債権者の権利実現を図ることが容易になりましたので,お困りの方は,ぜひ専門家にご相談ください。


この記事を書いたのは:
清水 洋一