相続・遺言

相続放棄したらもう管理しなくていいの!?

この記事を書いたのは:清水 洋一

1 相続放棄の効果

 相続人は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に,相続の放棄をすることができます(民915条1項)。

 相続放棄をすると,その相続に関しては,初めから相続人でなかったものとみなされ,相続財産は一切承継されません(民939条)。

 相続人は,積極財産(プラスの財産),消極資産(マイナスの財産)いずれも承継しないため,相続による責任から解放されますが,すべての責任を免れるわけではありません。

2 相続放棄した者による管理義務

 現行民法は,「相続の放棄をした者は,その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで,自己の財産におけるのと同一の注意義務をもって,その財産の管理を継続しなければならない。」と規定しています(民940条1項)。

 すなわち,相続人は,たとえ相続放棄しても,次順位の相続人が相続財産の管理ができるまでは,遺産に含まれる不動産などの管理義務を免れることはできません。

 しかし,現行民法では,相続人全員が相続放棄をして次順位の相続人が存在しない場合や,相続放棄した者が不動産を占有していない場合にまで,管理義務が負うかどうかは,解釈上明らかではありませんでした。

 実務上,本条の適用場面で疑問が生ずることがあったため,改正民法では,相続放棄した者の管理義務について,規定の見直しを図りました(令和3年4月28日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行予定)。

3 管理義務の改正内容

 改正民法では,「相続の放棄をした者は,その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは,相続人又は第九五二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間,自己の財産におけるのと同一の注意をもって,その財産を保存しなければならない。」と規定されました(改民940条1項)。

 「現に占有」していることが管理義務の要件となるため,相続人が実際に占有していない相続財産については,管理義務の対象外になります。「占有」とは,「事実上の支配」を意味します。

 たとえば,被相続人が生前所有していた建物について,遠隔地に住む相続人が相続放棄したときは,建物を管理する必要はありません。これは,相続人には建物について事実上の支配がないからです。

 反対に,被相続人と生前同居し,死亡後も引き続き建物に居住する相続人は,建物について事実上の支配が認められるため,本条によって,次順位の相続人又は相続財産清算人に引き渡すまで管理義務が課されます。

 被相続人所有の建物を現に占有する相続人は,たとえ相続放棄したとしても,必要に応じて庭の草木伐採,不動産の補強工事など,適正な管理処置を講じなければなりません。

4 まとめ

 改正民法では,相続放棄した者の管理義務の有無が明確化されました。

 相続財産を「現に占有」しているか否かによって判断できるため,管理義務の有無について予測可能性が大きく向上しました。

 もっとも,管理義務の範囲・内容については,細かな法的判断が必要となりますので,分からないことがあったり,対応に困ったりした場合は,一人で悩まないでぜひ専門家にご相談ください。


この記事を書いたのは:
清水 洋一