相続・遺言

土地所有権の放棄はできるの!?

この記事を書いたのは:清水 洋一

1 土地所有権の放棄

 所有者のない不動産は,国庫に帰属します(民法239条2項)。相続人が存在しない場合(相続人全員が相続放棄したときを含む。)も,残余財産となった不動産は,国庫に帰属します(民法959条)。

 しかし,すでに取得した土地については,実務上,所有権の放棄は認められていません(建物は取壊しによって所有権を放棄できます。)。

 売買・贈与・交換などの取引による取得はもちろん,相続・遺贈により土地を取得した場合であっても,一方的に土地所有権を放棄することはできず,他に所有権を移転しない限り,固定資産税や都市計画税といった税負担を免れることはできません。

2 相続土地国庫帰属法の成立

 近年,相続登記がされない所有者不明土地の急増が社会問題となり,一定の条件の下,土地所有権の放棄を認める制度を創設すべきとの意見が強くなっていました。

 これを受けて成立したのが,「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(通称「相続土地国庫帰属法」)です(令和5年4月までに施行予定)。

 これによって,相続・遺贈(相続人に対する遺贈に限る。以下「相続等」という。)によって土地所有権を取得した者は,一定の要件を満たすことによって,法務大臣(審査機関は法務局です)の承認を得て,土地所有権を放棄できるようになりました。

以下,国庫帰属への承認手続についてご説明します。

3 国庫帰属への承認手続

⑴ 承認申請者

 土地の所有者(相続等によりその土地の所有権の全部又は一部を取得した者に限る。)は,法務大臣に対し,その土地の所有権を国庫に帰属させることについての承認を申請することができます(法2条1項)。土地が共有である場合,共有者全員で共同することにより承認申請することができます(同条2項)。

 相続土地国庫帰属法は,相続等を契機に放置された土地の発生を抑制する点にあるため(法1条),その取得原因は,相続・遺贈に限定され,その余の取得原因による放棄は認められません。取引行為によって取得した土地の放棄は認められないので,注意が必要です。

⑵ 承認申請できない土地

 以下の土地については,通常の管理に過分な費用又は労力を要すると考えられるため,基本的に承認することができません(法2条3項各号)。

 ア 建物の存する土地

 イ 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地

 ウ 通路その他の他人より使用が予定されている土地として政令で定めるものが含まれる土地

 エ 土壌汚染対策法により汚染されている土地

 オ 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否,帰属又は範囲について争いがある土地

⑶ 承認申請書の提出および審査手数料の納付

 承認申請者は,①承認申請者の氏名又は名称及び住所,②承認申請に係る土地の所在,地番,地目及び地積を記載した承認申請書を提出しなければなりません(法3条1項)。また,審査に要する実費等として,政令で定める「手数料」を納めなくてはなりません(同2項)。

⑷ 承認義務の要件

 法務大臣は,以下の事由のいずれにも該当しないと認めるときは,その土地の所有権の国庫への帰属を承認しなければなりません(法5条)。なお,承認事由の有無は,一筆の土地ごとに判断されます(同2項)。

 ア 崖(勾配,高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち,その通常の管理に過分な費用又は労力を要するもの

 イ 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物,車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地

 ウ 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地

 エ 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令に定めるもの

 オ 前各号に掲げる土地のほか,通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令に定めるもの

⑸ 職員による事実調査

 法務大臣は,承認申請の審査のため必要があると認めるときは,その職員に事実の調査をさせることができます(法6条1項)。実地調査をはじめ,承認申請者その他の関係者に事実聴取や資料提出を求めることができ,必要な限度で,職員を他人の土地に立ち入らせることができます(同2,3項)。

 法務大臣は,職員を他人の土地に立ち入らせるときは,あらかじめ,その旨と日時・場所を占有者に通知しなければならず,職員は,立ち入る旨を占有者へ告げなければなりません(同4,5項)。

 また,日出前及び日没後は,占有者の承諾がない限り,土地の立ち入りはできず,職員は,立ち入りの際,身分証明書を携帯しなければなりません(同6,7項)。そのうえで,国は,実地調査に伴う立ち入りによって,損失を受けた者があるときは,通常生ずべき損失を補償する必要があります(同8条)。

⑹ 資料の提供要求

 法務大臣は,事実少佐のため必要があると認めるときは,関係行政機関の長,関係地方公共団体の長,関係のある公私の団体その他の関係者に対し,資料の提供,説明,事実の調査の援助その他必要な協力を求めることができます(法7条)。

⑺財務大臣、農林水産大臣からの意見聴取

 法務大臣は,承認するときは,あらかじめ,当該承認に係る土地について,財務大臣及び農林水産大臣の意見を聞かなければなりません(法8条)。これは,国庫帰属後の効率的な土地管理を可能にすべく,農地・森林については農林水産大臣,それ以外の土地は財務大臣が管理することが想定されているためです。

⑻ 承認の通知等

 法務大臣は,承認・不承認の旨を承認申請者に通知しなければなりません(法9条)。併せて負担金の金額を通知する必要があります(法10条2項)。

 承認申請者は,法務大臣から承認があったときには,国有地の種目ごとにその管理に関する10年分の標準的な費用の額を考慮して定めるところにより算定した額の金銭(以下「負担金」という。)を納付しなければなりません(同1項)。ちなみに,国有地の標準的な管理費10年分は,宅地200㎡で約80万円とされています。

 そして,負担金の額の通知を受けた日から30日以内に負担金を納付しないときは,承認は失効します(同3項)。

⑼ 国庫帰属の時期

  承認申請者が負担金を納付したときは,その納付の時において,土地所有権は国庫へ帰属します(法11条)。法務大臣は,承認した土地が国庫に帰属したときは,直ちに農林水産大臣(農用地又は森林の場合)または財務大臣(その余の土地の場合)に通知しなければなりません。

【承認手続の流れ】

 ①承認申請→②法務大臣による要件審査・承認→③負担金の納付→④国庫帰属

4 国庫帰属後の土地管理

 国庫に帰属した土地(以下「国庫帰属地」という。)は,主に農用地又は森林として利用されている土地は農林水産大臣が(法12条1項),その余の土地は財務大臣が管理・処分することになります(国有財産法6条,8条)。

5 承認の取消・損害賠償責任

 法務大臣は,承認申請者が偽りその他不正の手段により承認を受けたことが判明したときは,承認を取り消すことができます(法13条1項)。法務大臣の取消権に期間制限はなく,取り消された場合,国庫帰属は遡及的に無効となります。

 もっとも,第三者保護の観点から,国庫帰属地について所有権を取得し,又は所有権以外の権利の設定を受けた者があるときは,これらの者の同意がなければ取り消すことができません(同3項)。

 また,承認申請者は,承認を受けられない土地であることを認識しながら,これを故意に告げないで承認を得たときは,これによって発生した国の損害を賠償しなければなりません(法14条)。

 国の損害賠償請求権は,消滅時効が5年間であるため(会計法30条前段),国が権利を行使することができる時から5年間行使しない場合は,時効によって消滅します。

6 まとめ

 社会経済情勢の変化に伴い,今後も所有者不明・管理不全の土地が多く発生すると予想されます。

 相続等によって取得した土地の放置によって,思いがけない責任を負担することもあり得ますので,土地所有権の放棄で分からないことがありましたら,お気軽にご相談ください。


この記事を書いたのは:
清水 洋一